研究討議
〈一般公開〉
■テーマ
教育関係と人間形成
─学校・家庭・インターネットの空間から─
■報告者・指定討論者・司会
報告者 河野 桃子(日本大学)
大倉 得史(京都大学)
時津 啓 (島根県立大学)
指定討論者 松下 良平(金沢大学・名誉教授)
司会 藤川 信夫(大阪大学)
渡邊 隆信(神戸大学)
■趣旨
近代に成立した学校では、多様な人間集団のなかから特定の年齢層の子どもをすくい取り、彼らに対してプロの教師が意図的、計画的に教育を行うことになった。それは教育関係の合理化と言えるが、同時に2つの意味で教育関係の貧困化を引き起こしたように思われる。1つは、教育の機能が学校に集中し、子どもの成長に関わる学校外の多様な関係が軽視されるようになったことである。もう1つは、学校では教育の主体である教師が客体としての生徒に働きかけるという技術的関係になる傾向があったということである。
こうした教育関係をめぐる問題については、過去の大会(第34回大会1991年、第56回大会2013年)においても取り上げられている。第34回大会では教育関係の構造と問題点が本質論的・原理論的観点から議論された。第56回大会では子どもが主体的に学ぶために教師が教えることの意味について教育者の責任性も含めて議論された。しかし、学校と学校外の生活領域を俯瞰しながら教育関係の問題を検討することは課題として残された。一方、近年急速に進展するデジタル化社会は教育関係をめぐる新たな課題をわれわれに投げかけている。
そこで今回の研究討議では、これまで積み重ねられてきた議論を踏まえながら、学校、家庭、インターネットという3つの空間に着目して、教育関係と人間形成について歴史的かつ現代的に議論を深めたい。
第一に、学校における教師-生徒関係である。現在、生徒の「主体的」で「アクティブ」な学びの必要性が声高に論じられているが、それは近年に始まったことではない。過去を振り返るなら、歴史上、最初に大規模なかたちでそうした学びを追究したのは、19世紀末から20世紀初頭に国際的に展開した新教育の思想と実践であった。新教育においては、学校をひとつの共同体と理解し、学校内外の多様な人間関係の構築が目指された。また生徒の主体性に準拠しながら教師が教育的な働きかけを行うことが試みられた。新教育における教育関係は、今日の学校での教育関係にいかなる示唆を与えるのか。
第二に、家庭での親子関係である。学校制度の拡大に伴って家庭で親が担ってきた教育の役割は縮小してきた。だが、依然として子どもにとって親は、物心がつくずっと前から、無意識のうちに模倣の対象として多くの影響を与える存在である。その意味では、学校の教師よりも親の影響力の方がはるかに大きく、根底的である。家庭での親子関係が学校での教師-生徒関係にも影響を及ぼし得るとすれば、その親子関係の特質は何か。また現在の多様化する家族形態のなかで親子関係はどのように変化しているのかを、学校での教師-生徒関係と関連させながら検討することも、重要な課題である。
第三に、インターネットを介したオンラインでの教育関係である。ICTの拡張によって、フェイス・トゥ・フェイスの関係に加えて、オンラインでの関わりが可能となった。「いま、ここで」の対面の関係でしか伝えることのできない個人や集団の雰囲気や機微があるが、時間と空間を超えて可能となる教師と生徒の関係、生徒同士の関係、そして学校外の多様な人々との関係は魅力的である。同時に開かれたインターネット空間であるがゆえの関係の危うさもある。オンラインでの関係が孕む可能性と課題を前にして、学校での教師-生徒関係や家庭での親子関係に何が求められ、また何が求められなくなるのか。
本研究討議では、報告者として学校空間の観点から河野桃子会員(日本大学:シュタイナー研究)、家庭空間の観点から大倉得史氏(京都大学:発達心理学(関係発達論))、インターネット空間の観点から時津啓会員(島根県立大学:メディア教育研究)、指定討論者として松下良平会員(金沢大学名誉教授:教育原論)に登壇いただき、教育関係と人間形成について多面的に議論していきたい。